2021/03/20

書評「蠅の王」:愚かしさからの学び

前置き 未成熟な少年少女たちが文明から隔絶した環境で奮闘するさまは、それ自体が独特の芳香を放っている。そこには分別の行き届いた大人の理屈を軽々とすっ飛ばす爽快さと背中合わせのもどかしさ、計画に裏打ちされない行きあたりばったりの邪悪さ、脆く壊れやすくもあり、同時に修復されやすくもある刹那的な人間模様……などが、渾然一体となって詰められているのだ。 本作は巻末の訳者あとがきで既に一定の解説が為されており、 Read more

2021/03/06

金持ちの方が麦を食っている

もうじき三十路に達するともなれば、やはり肉体の健康が気がかりになってくる。思えば、数年前にダイエットを始めて十七キロもの減量に成功したのも、肉体に関する同様の懸念からだった。 カロリーを基礎代謝近くまで制限すれば当然、体重は減る。だが、減るのは脂肪だけに留まらない。よっていたずらに筋肉を減らさぬよう筋トレにも励むべし――各種の能書きが異口同音に言っていたのは概ねこんな具合の内容である。 しからば、とば Read more

2021/02/25

漫画や小説のマルチエンディングは良くない

前置き キャラクター商売というのは因果なものだ。客をコンテンツに食いつかせる重要な要素であると同時に、食いつきが良すぎて引き剥がせなくなってしまうリスクも孕んでいる。 主人公に正ヒロイン候補が複数人いる形式の恋愛モノを想定してもらいたい。こういった作品は、各ヒロインが様々な駆け引きを繰り広げるものの最終的には必ず一人だけが主人公に選ばれて大団円を迎える。(対象年齢が高い作品やWeb小説などでは重婚やハ Read more

2021/02/12

書評「限りなく透明に近いブルー」:全体的に不潔

前置き 本作を最初に手にとったのは高校生くらいの頃だったと思う。当時、ある種の焦燥感から小説を乱読していた僕は母の蔵書――この頃は電子化以前だったため部屋の壁面と押入れが埋まるほど本があった――から適当に抜き出して読むということをやっていた。その日、不運にも僕の手が捕まえた一冊がまさしく本作「限りなく透明に近いブルー」であった。 当時、本作を通じて得られた読書体験はひかえめに言っても最悪に近かった。高 Read more

2021/01/30

もはや「漠然」とは言えない加齢への恐れ

そいつは年を追うごとに近づいてくる。五年ほど前はまだ遠くで手を振ってくる程度の間柄だったが、この頃は背中にぴったりとくっついてまわるようになった。僕は加齢が恐ろしい。どこからどう見ても僕がおっさんと思われる年齢に達した時、背中にへばりついていたそいつは僕の肉体と一体化して、そいつの持つ諸要素は僕自身のそれと混濁してしまう。そしていくらかの当惑を経た後、今度は何も感じなくなってしまうのだ。 コロナ禍以 Read more

2021/01/24

書評「推し、燃ゆ」:無限遠点の隣人

前置き 大量にある積ん読をすっ飛ばし、あえてこの本を優先的に開いたのにはわけがある。 第164回芥川賞を受賞して間もない本作は、なるほど確かに著者が弱冠21歳の若手、それも現役女子大生であることから大きく話題を呼んでいる。が、これはどうでもいい。この本を求めた理由は、僕が理解に悩んでいたある種の人々について、より深く解釈できるようになるかもしれないと期待したからだった。 ある種の人々は主にSNSを活動拠 Read more

2021/01/20

カーネルアップデート失敗からの復帰

本日午前8時頃。いつものように淹れたてのコーヒーを片手に意気揚々とArch Linuxを立ち上げようとしたが、エラーにより起動しなかった。画面上にはFaild to open file: initramfs-linux-zen.imgの文字。対象となっているファイルの名称からブート関連の障害と推定される。 そういえば、昨日行ったアップデートにカーネルの更新が含まれていたような気がする。恐らくこの過程でなんらかの問題が生じたの Read more

2021/01/03

構想中の短編小説一覧

■火星統一戦争ドキュメンタリー(仮題) ・あらすじ 月・地球間の宇宙旅行が当たり前になった時代。映画監督の主人公は月から離れた自由宙域で宇宙船を使った新作映画(この時代では現代でいうところの飛行機を使う映画と同等の規模)を撮影していた。 しかし、火星方面より飛来したデブリ群が宇宙船を直撃。航行不能に陥り通信機能を全損した宇宙船は、救援も得られないまま火星へと流されてしまう。この時代、火星は二つの勢力に別 Read more

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