2022/10/07

人生やり直せるからって勝ち確だと思うな

急な話で申し訳ないけど君は人生をやり直せることになった。現在の人格と記憶を保ったまま、任意の過去の自分に時間移動できる。いわゆるタイムリープってやつだ。君がよく知るであろう言葉で表せばね。ああ、僕が誰かは気にしなくていいよ。問題はやり直したいかどうかだ。今の自分にすっかり満足しているなら断れるが……どうせ断らないだろ? 僕調べでは対象者の七十三パーセントが五分以内に合意している。誰しも人生に不満はあ Read more

2022/09/30

書評「われら」:ディストピアSFの嚆矢

はじめに 巨大国家ないしは企業による執拗な管理統制、秩序が過剰に行き届いているがゆえの圧政、支配に慣れきった登場人物たちの狭量、諦観に満ちた思考様式――これらは俗にディストピアSFと呼ばれるジャンルが共通して持つ要素である。天を衝く勢いで異常発達した高層建築群や、都市機能を支える緻密な社会インフラ、高度な科学技術、それらの合間合間に点在する監視装置の存在もまた、ジャンルに馴染み深い象徴として知られて Read more

2022/09/16

ノイズキャンセリング

その洞穴は足腰まで浸かる水たまりを越えた先にあった。両脇を切り立った高い崖に囲まれ、道は狭く、反対側は鬱蒼と茂った山の森林に遮られている。ゆえに侵入経路はここ一つしかない。昨夜の雨露と思しき雫が両脇の崖を伝って落ち、できあがった水面が陽光をてらてらと反射している。 ウィリアム・ソイル隊長率いる王家の守護隊〈ロイヤルガード〉は崖の手前に整列していた。黄金色の輝きを放つ板金鎧と兜に身を包んだ金髪碧眼の剣 Read more

2022/09/10

レスバ欲に抗う

赤の他人に議論を持ちかけてまともに成立することはまずありえない。理想形の議論を完遂させるには相手との信頼関係が必要不可欠だからだ。あけすけな言い方をすれば、友好を損ねたくない後ろめたさこそが議論を成り立たせていると言える。むろん、赤の他人相手にそんな余地は存在しない。 ましてや議論をふっかけてくる赤の他人はただの赤の他人でさえない。初っ端から意見が対立している。つまり敵だ。エネミーだ。好感度はゼロじ Read more

2022/09/04

黒人エルフと雇用均等

Amazon Prime Videoにて歴史的ファンタジー大作「ロード・オブ・ザ・リング」の最新シリーズ「力の指輪」が絶賛公開中だ。僕はJ・R・R・トールキンの原作小説は中途半端で映画化作品しかまともに観ていないが、2話目の段階でかなり期待の持てる出来だと感じた。 その「力の指輪」についてだが、浅黒い色の肌をした俳優がエルフを演じていることで物議をかもしている。この俳優はプエルトリコ出身なので本当は黒人ではないものの、人 Read more

2022/08/25

不眠との戦い:シーズン4

オンラインゲームが原因で不眠をこじらせたのは大きく区分すればこれで四度目だ。一度目は中学生の頃、二度目は大学受験中、三度目は五年くらい前だった。運動習慣と良質な食生活を確立してなお眠れなくなるのだからオンラインゲームというやつはまことに恐ろしい。 おそらく、単に就寝時間が遅くなること以上に交感なんとか神経みたいなのがいたずらに刺激されすぎて、一種の興奮状態に陥っているのだと思われる。結果、今日こそは Read more

2022/08/10

叱責されるとあくびが出る

この悪癖は僕の人生にけっこうな厄介をもたらしてきた。表題通り、叱責されるとあくびが出る。誓って言うが、別に相手をなめてかかってはいない。等身大の自省は備わっているつもりだし、反抗を態度で示すつもりもない。にも拘らず、どういうわけか叱られるとあくびが出る。 恐るべきことにこの悪癖はどんなに努力してもなかなか止められない。気がついたらおのずとあくびの体勢をとっている。奇跡的に寸前で留めたところで、既に口 Read more

2022/07/24

表現の自由の競争的側面

前提として、われわれがいま認識している「表現の自由」とは実質的に市場原理に基づくものであり、率直に言えば能力主義の産物である。 もし「表現の自由」が単に束縛を受けずに喋ったり書いたりできれば満たされうるのであれば、たいていの専制国家はそれを実現することが可能だ。誰もいない空室とか、閉じられたネットワーク環境でのみ表現を認めればよい。今風に表すと「壁打ち」だけ許せば事足りるということになる。 もちろん自 Read more

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